京都地方裁判所 昭和55年(ワ)1959号
原告
甲野乙
ほか二名
被告
小西縫製工業株式会社
主文
被告は原告甲野乙、同甲野丙子に対し各金一七二万〇三六一円及びこれに対する昭和五五年一二月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告甲野乙、同甲野丙子のその余の請求及び原告甲野戊の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告甲野乙、同甲野丙子と被告との間において生じた分はこれを六分し、その一を被告の負担、その余を同原告らの各負担とし、原告甲野戊と被告との間において生じた分は同原告の負担とする。
この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告甲野乙、同甲野丙子に対し各金一一二七万〇五七九円、同甲野戊に対し金一〇〇万円及び右各金員に対する昭和五五年一二月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告甲野乙、同甲野丙子の次女である訴外亡甲野丁美(以下単に丁美という。)は昭和五三年三月京都府立桃山養護学校を卒業し、製綿及び縫製加工並びに販売、寝具の製造及び販売を業とする被告と雇傭契約を締結して入社し、被告会社内にある従業員寮に入寮した。そして丁美は住込みで同敷地内にある工場において綿を蒲団カバーの中につめる蒲団加工の作業に従事していた。
2 昭和五三年一二月三〇日午前一一時四四分頃、被告会社の工場兼従業員寮の西北部従業員寮階下八畳間丁美の居宅付近から出火し、右建物を全焼(以下本件火災という。)し、丁美が焼死した。
3 被告の責任
(一) 雇傭契約に基づく債務不履行責任
被告は労働者を雇傭するにあたってその労働者の生命、身体の安全を十分に保護し、その労働者の健康、心身の能力に応じた労働条件を定め、必要な安全衛生教育、建設物及びその付属建物について労働者の健康、風紀、生命の維持に必要な措置を講じる義務を負っている。
丁美は生来精神薄弱者であり、小学校三年のときから府立桃山学園の寮に入り、引き続き同所の府立桃山養護学校に学んだ。通常の日常生活には支障はなかったが、強度の近視であり知能検査ではIQ六五(鈴木ビネ式)で前記従業員寮から単独で外出することはできず、勤務や寮生活においても一般人より高度の監督、指導援助を必要とし、条件適応能力や危険回避の措置についても劣り、危険発生の場合には被告において万全を尽して保護に努める義務があった。
ところで、本件火災発見後工場内にいた被告会社製造課長である訴外金子貞男は丁美を直ちに工場外へ救出することをせず、食堂南側にあった布団を除けさせるなど消火活動を手伝わせ、その後火勢が強くなってから工場入口の方を指して逃げるよう指示したのみで確実に工場外に出たかどうかを確認しなかった。
丁美は責任感の強い子であり、被告はこれを十分知っていたのであるから、場合によったら自己の持場のことを心配して戻るかもしれないことを予想し、口頭で指示するだけでなく、現実に安全な領域まで救出すべきであった。その措置をとらず死亡するに至らしめたことは安全配慮義務の不履行であるというべきである。
(二) 不法行為責任
被告は原告らに対し前記安全配慮義務による債務不履行責任があるとともに、丁美の死亡は被告の被用者である金子が事業の執行をするにつき、丁美を安全に保護すべき注意義務があるのにこれを怠り、丁美の避難のための誘導を十分にしなかった過失によるものであるから、被告は金子の使用者として不法行為責任がある。
4 損害
(一) 丁美の損害と相続
(1) 丁美の逸失利益
丁美は死亡当時満一八歳の健康な女子であり、被告会社において一か月金六万八六二八円の収入を得、今後六七才まで四九年間稼働することが可能であったから、生活費を三〇パーセント控除してその間の逸失利益の死亡当時における現在価をホフマン方式により中間利息を控除して計算すると次の計算式のとおり金一四〇七万一七五九円となる。
68,628円×(1-0.3)×12×24.41(ホフマン係数)=14,071,759円
(2) 丁美の慰藉料
丁美は就職後九か月して一八才で前記火災により死亡したものであり、これに対する慰藉料は金五〇〇万円が相当である。
(3) 原告甲野乙、同甲野丙子は丁美の両親として右丁美の損害合計金一九〇七万一七五九円の各二分の一金九五三万五八七九円を相続した。
(二) 原告甲野乙、同甲野丙子の慰藉料
右原告らは前記火災事故により次女丁美を奪われたものであってその精神的苦痛は大きく、これに対する慰藉料は各金三〇〇万円が相当である。
(三) 弁護士費用
原告甲野乙、同甲野丙子は被告を相手方として損害賠償額確定の調停を申立てたが不調となり、やむなく本訴の提起を原告ら訴訟代理人に委任し、京都弁護士会報酬規定に基づき報酬として金二〇〇万円を支払う旨約したので各金一〇〇万円。
(四) 原告甲野戊の慰藉料
右原告は丁美が出生してから桃山学園に入るまで同居して養育したほか、その後も両親以上に看護、養育に努めてきた。それだけに丁美の死亡によって受けた精神的苦痛は大きく、これに対する慰藉料として金一〇〇万円が相当である。
(五) 損益相殺
原告甲野乙、同甲野丙子は丁美の死亡に伴う労災補償保険法による遺族補償一時金四五三万〇六〇〇円の支給を受けた。
5 よって被告に対し、原告甲野乙、同甲野丙子はそれぞれ前記丁美の損害賠償債権の相続分及び自己固有の慰藉料合計金一二五三万五八七九円から右補償一時金の各半額金二二六万五三〇〇円を控除した残額金一〇二七万〇五七九円と弁護士費用各金一〇〇万円の合計金一一二七万〇五七九円、原告甲野戊は金一〇〇万円及び右各金員に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五五年一二月一八日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1、2の事実(ただし出火場所は丁美の居室である。)は認める。
2 同3(一)の事実中丁美が精神薄弱者であり府立桃山学園の寮に入り(入寮の時期は不知)、府立桃山養護学校を卒業したこと、訴外金子貞男が被告会社の製造課長であること、同人が丁美に対し工場入口の方を指して逃げるよう指示したことは認めるが、その余の主張は争う。
3 同(二)の主張は争う。
4 同4の事実中丁美が死亡当時満一八才であり、被告会社において一か月平均金六万八六二八円の収入を得ていたこと、原告甲野乙、同甲野丙子が丁美の両親で相続人であることは認めるが、その余の事実は否認する。
丁美は精神薄弱者であり養護学校を卒業した身障者であって、その就労は一般的に困難でどこの企業でも雇傭される機会があるものではなく、また就労可能年数は統計的に算出された平均余命年数を基礎としたものであるから、比率の少ない身障者に対し、健常者と同様の就労可能年数を基準とすることは不合理である。
原告甲野戊は丁美の相続人ではなく、その後見人あるいは保護者でもないから、同原告の請求は失当である。
三 被告の主張及び抗弁
1 雇傭契約における安全配慮義務は労務提供過程において存在するもので業務遂行性と業務起因性とが必要である。被告会社は一二月二九日をもって就業を終え翌三〇日から休暇に入っていた。本件火災はその休暇中に発生したものであって、丁美は寮にとどまっていたとはいえ休暇中の私生活を営んでいたものであり、その私生活にまで右の義務が働くものではない。しかも本件火災はその原因が不明であって、建物その他に欠陥があったともいえないから、丁美の死亡は業務上のものではなくしたがって被告の安全配慮義務の不履行によるものではない。
2 前記のとおり本件火災当日は年末の休暇に入っており、火災発生時工場内には丁美のほかは被告会社の専務取締役小西英明とその子供である小学校四年生と同二年生及び製造課長金子貞男がいたのみであった。火災発生後金子は丁美の知らせで出火場所を知り、直ちに消火活動を行っていたが、布団を移動させて消火活動に協力していた丁美に対して「外へ出よ。」と指示し、丁美は工場の外へ出たものである。しかるに丁美は工場内に立ち戻り自分の仕事場で焼死したものであって、金子としては丁美が工場内に立ち戻ることが予想もできなかったことである。丁美は精神障害者であったが、五体健全であり、入社前に眼の手術をして〇・九の視力があり、一人でバスや電車に乗って買物をすることができ身辺処理能力は十分備えており、消火訓練も行われていて火災に対する避難能力も持っていた。そのため他人の介添を必要とすることはなく、金子が外に出ることを指示したことによって安全配慮義務はつくされていたものというべきである。
3 仮に被告に安全配慮義務の不履行があるとしても、丁美は前記のとおり身辺処理能力、火災に対する避難能力があったものであるから金子の指示にもかかわらず工場内に立ち戻ったことについて重大な過失があるというべく、その損害額の算定について過失相殺されるべきである。
四 過失相殺の抗弁に対する答弁
被告は精神障害者を何名となく雇傭しており、かかる場合通常の労働者に対するより高度の安全保護義務が要請される。そしてこの安全配慮義務違反の結果として発生した災害については、被災労働者の過失を認めるべきではない。これは労働関係が使用従属関係であり、災害は使用従属関係に一定程度内在する危険が顕在化したものにすぎないこと、更には利益のあるところに危険も帰するとの危険責任の立場(被告は障害者を低賃金で働かせている。)からもいえる。また丁美が障害者であることを考えるならばその過失の判断は慎重になされるべきである。
理由
一 請求原因1、2の事実は出火場所を除いて当事者間に争いがなく、(証拠略)を総合すると次の事実が認められる。
1 丁美は精神薄弱者で(当事者間に争いがない。)その知能はIQ六五ないし七〇、精神年令は京都児童院式検査で九才六か月、鈴木ビネ式検査で一〇才程度であり、その性格は真面目で根気・責任感とも強く健康であったが、積極性に欠け、動作は機敏でなかった。日常生活の面では基本的な身辺処理能力は有していた。なお視力が後退性斜視で左右〇・三位であったが後記就職するについて昭和五二年一二月に手術し〇・九に回復している。
2 丁美は小学校三年の頃養護施設府立桃山学園に入園し、以来同学園の寮で生活し、府立桃山養護学校中学部を経て昭和五三年三月同校高等部を卒業した(右事実中入園時期を除いて当事者間に争いがない。)。卒業後京都府職業相談室の紹介により被告会社に就職することとなったが、それに先立ち昭和五二年九月と昭和五三年二月に各二週間、一回目は初日を養護学校の先生が同行し、翌日からは丁美一人が電車、バスを利用し、先生が見えかくれしながら後をついて行く通いでの実習、二回目は会社に住込みでの実習を行った。
3 被告会社に入社後工場に接続し、内部的には一棟の形になっている寮に住込み、掛布団の自動縫製機の補助役として稼働していたが、当初性格的に暗く、発言も控え目であったが職場にとけ込むにつれて明るさを増していった。
4 被告会社は昭和五三年一二月二九日をもって年末の業務を終了し、翌三〇日から休暇となり丁美を除く寮生は全員帰宅し、また寮の管理者訴外小西弘志夫妻は買物のため外出し丁美一人となっていた。午前一一時頃相前後して出社した被告会社製造課長訴外金子貞男及び専務取締役訴外小西英明は前記工場で機械の整備作業をしていたが、午前一一時三〇分頃火災報知機の警報ベルが鳴りだしたので金子は直ちに警報表示盤で出火場所を確認し現場に急行していたところ、丁美と出会い同人より寮の自室から出火している旨の知らせを受けた。そこで金子はホースで消火に当り丁美はその傍らで火災の様子を見ていたが、製品である布団が放水の妨げになるので金子は丁美にそれを移動させた後出口を指さし外に出るよう指示し、丁美は出火場所とは反対方向の事務所に通ずる工場の出口に向ったが、その後の丁美の行動は明らかでない。金子は更に数分間消火活動をし、火が工場の天井に廻ってきたため工場外に退去した。一方小西は警報ベルを聞くと工場二階の異常の有無を確かめ寮内の人の有無を外部から確認するなどした後事務室から消防署に電話通報し工場内に入り金子の消火の手伝いに向ったが、その間丁美に出会うことはなかった。金子が工場外に出て間もなく消防署が、やゝ遅れて警察官が到着し、金子は工場内の人の有無について聞かれたが、丁美が外に出ているものと思い込み皆出ている旨答えた。火災は午後一時頃鎮火したが鎮火前に丁美の姿が見えないことに気付き、集った従業員、警察官、消防署員等が工場内を除き心当りを探すも見当らず、翌三一日昼頃工場内の丁美の職場で焼死体となって発見された。
二 雇傭契約に基づく債務不履行責任について
1 一般に雇傭契約をするにおいては使用者は信義則上その付随的義務として労働者の生命、健康等を危険から保護すべき義務があり、その具体的内容は当該契約における契約内容、労働者のおかれている具体的状況に応じて決定されるべきものであるところ、これを本件契約についてみるに、前記認定のように丁美は精神薄弱者であって被告会社の工場に接続する寮に住込みで稼働するものであること、一般に精神薄弱者は正常人に比較して判断力、注意力、行動力等において著しく劣るものであるから、会社施設の火災などの不測の事態に際しては丁美においても予期しない行動に出るおそれのあることが予想されること等に鑑みると、かかる危険な事態が発生した場合には丁美の生命、身体を危険から保護するため安全な場所に誘導し危難を回避することができるようにする安全配慮義務があるというべきである。
2 しかるに前記認定事実によると、金子は丁美に対し火災の現場である工場内から出口を指さし外に出ることを指示し、丁美が出口の方へ向うのを確認したのみで安全な場所に誘導することをせず、しかも金子が工場外に退去後も丁美の安全確認のため工場内を再度調査するなどの措置をとらないで丁美を死亡させる結果を招いたものであって、金子が被告会社の製造課長であるという中間管理職の地位にあることに鑑みると被告の履行補助者として前示安全配慮義務を怠ったものというべく、被告に債務不履行責任あるを免がれない。
3 被告は安全配慮義務の要件として業務遂行性と業務起因性が必要であり、丁美の死亡は業務外の私的な災害である旨主張するが、右の要件は災害補償について求められるものであって、安全配慮義務は右の要件に限定されるものでなく、前記認定のとおり本件火災は被告会社の施設であり、当日年末の休暇に入っていたけれども丁美は寮に残留し、火災発生時には金子に知らせ、金子の消火活動の際には短時間ではあったが布団を移動させて消火の手助けをしたりしていたのであるから、丁美の死亡が雇傭契約外の私的な原因によるものということはできない。
また被告は、丁美は身辺処理能力があり、火災に対する避難能力を持っていたから、金子が外に出ることを指示したことをもって安全配慮義務を履行した旨主張し、丁美が日常生活上の基本的な身辺処理能力を有し、単身での外出も可能であったことは前記認定のとおりであり、単純な作業であるにしても工場で稼働していたのであるから火災の危険性を認識し避難する能力を持っていたことは推認するに難くないが、前1項説示のとおり丁美は精神薄弱者として危急の場合の具体的な判断能力に劣り予期しない行動に出ることも予想されるところであるから、前記の指示のみでは義務を履行したとするには足りない。
よって被告の右主張は採用し難い。
三 損害について
1 丁美の損害
(一) 逸失利益
丁美が死亡当時満一八歳の女子で被告会社において稼働し一か月平均金六万八六二八円の収入を得ていたことは当事者間に争いがない。そして前記認定の丁美の経歴、年令、職業、健康状態等を総合すると、丁美は死亡しなければ少なくとも今後四二年間就労が可能であったと考えられ、将来の生活費は右収入額を考慮するとその五〇パーセントとするのが相当であるから、丁美の稼働可能期間中の逸失利益の死亡当時における現価をホフマン方式により中間利息を控除して計算すると、その金額は次の計算式のとおり金九一七万八三〇八円となる。
68,628円×(1-0.5)×12×22.29(ホフマン係数)=9,178,308円
(二) 慰藉料
本件災害の態様、丁美の経歴、その他一切の事情を考慮すると丁美の慰藉料は金五〇〇万円をもって相当と認める。
(三) 丁美の損害賠償債権の相続
丁美の損害額は合計金一四一七万八三〇八円となるところ、原告甲野乙、同甲野丙子が丁美の両親で相続人であることは当事者間に争いがないから、右丁美の被告に対する損害賠償債権の各二分の一金七〇八万九一五四円を相続した。
2 原告らの慰藉料
原告らは親族固有の慰藉料を請求するけれども雇傭契約上の債務不履行によっては右請求権を取得しない(最高裁昭和五一年(オ)第一〇八九号昭和五五年一二月一八日判決参照)から、次に右請求に対する被告の不法行為責任について判断する。
四 不法行為責任について
丁美が本件火災によって死亡するに至った経過については前記認定のとおりであるところ、本件火災は被告会社の寮及び工場であるから、金子の消火活動は会社財産の維持保全のためであって被告の事業の執行に当るというべきである。そして金子としては右事業の執行に際し丁美を確実に避難させるかあるいは安全に避難したか否かについて確認し、もって丁美を安全に保護すべき注意義務があったのにかかわらずこれを怠り、単に工場の外に出ることを指示したことによって安易に丁美が避難したものと即断した過失により丁美を死亡するに至らしめたものというべきである。よって被告は金子の使用者として不法行為責任を免れない。
五 原告らの慰藉料
1 原告甲野乙、同甲野丙子が両親として丁美の死亡によって精神的苦痛を被ったことは推察するに難くなく、丁美の年令、災害の態様その他諸般の事情を考慮するとその慰藉料は各金二五〇万円が相当である。
2 原告甲野戊は丁美が桃山学園に入園するまで同居して養育してきたなどをもって丁美の死亡による慰藉料を請求し、同原告本人尋問の結果によると、丁美は同原告の甥の子に当り、桃山学園に入園するまで同居していたことが認められるが、本件のように両親の慰藉料が認容される場合においては右認定の事情のみをもって慰藉料請求を認めるには足りないというべきである。
六 過失相殺について
前記認定によると丁美は精神薄弱者であるけれども、火災の危険性を認識する能力を有しており、上司の指示により行動する能力を有していたものというべきであるから、金子の指示に従い工場外に避難していたならば死の結果を招くことはなかったにもかかわらず、あえて工場内に立ち戻ったことには重大な過失があるというべきであり、本件火災当日被告会社は休暇で火災発生時被告会社の従業員は金子及び小西の二人であって、火災発生という緊急時のため必ずしも丁美の安全保護のためのみに意を用い難い事情にあったことなどを総合して判断すると、丁美の過失割合は六割とするのが相当である。
原告らは安全配慮義務違反の場合には過失相殺をすべきでない旨主張するけれども、そのように解する根拠はなく、また被災者が障害者の場合には過失の認定を慎重にすべきとの主張も、障害者であることは過失の有無を判断する事情にすぎないから原告らの主張は採用しない。
すると、原告甲野乙、同甲野丙子の前記相続した損害賠償債権及び固有の慰藉料の額は各合計金九五八万九一五四円であるところ、右過失を斟酌すると各金三八三万五六六一円となる。
七 損益相殺
原告甲野乙、同甲野丙子は丁美の死亡に伴う労災補償保険法による遺族補償一時金四五三万〇六〇〇円の支給を受けたことを自認するので、これを二分し右原告らの損害額より控除すると各金一五七万〇三六一円となる。
八 弁護士費用
原告甲野乙、同甲野丙子が本件訴訟の遂行を弁護士に委任していることは本件記録上明らかであり、本件訴訟の内容、審理経過、事案の難易度、認容額等を勘案すると、右原告らが被告に対し賠償を求め得る弁護士費用は各金一五万円が相当である。
九 以上のとおりであるから、原告甲野乙、同甲野丙子の本訴請求は被告に対し各金一七二万〇三六一円及びこれに対する本件訴状が送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和五五年一二月一八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求及び原告甲野戊の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 宮地英雄)